アートパラダイスに寄せて    松原 慶(臨床美術士)


 

 私とアートパラダイスの出会いは、2019年正月、心理学者の父、松原達哉宛てに届いた千通余りの年賀状を整理していたときだった。後藤昌之さんからいただいた書面は、美しいカラー刷りで、多摩市で開催される同展のことが紹介されていた。この展覧会のことは、どんなに盛況で、面白い内容だったか、偶然、前年に鑑賞した臨床美術士なかまから、すでに評判を耳にしていた。「参加するには、どうしたらいいのだろう」と思っているところだた。渡りに舟とは、このことである

 

 

私と父(松原達哉)       

(父は元筑波大学教授、立正大学名誉教授) !

 

 父とどのようなご縁か知らぬまま、早速、後藤さんにお電話して、後藤さんが出版社・培風館の元編集長で、父の編著書『カウンセリング大事典』のご担当者であったこと、アートパラダイスの相談役を務められていることがわかった。「展覧会に、ぜひ参加して下さい!」とお誘いいただき、涙が出るほど、嬉しかった。
 2016年より、多摩市の有料老人ホームに入居している父は、現在、89歳。2度の脳梗塞や加齢性の高度難聴で“病気のデパート”と自認しながら、活動的で創造的な生活を送っている。週に1度水中療法に通い、笑いヨガを楽しみ、書きものもする。
 特に、2015年から父自身が創作し始めたコラージュ作品が30点を越え、発表の機会を探しているところだった。
コラージュは絵画技法の1つであり、心理的芸術療法にも取り入れられている。
 雑誌や新聞などから、心惹かれたり、気になる写真、絵、イラスト、文字などを切り抜き、台紙に貼って作品化する。カタルシス(心の浄化)や自己治癒につながり、達成感を味わい、世界で1つの創造物が出来上がる。
 父は、筑波大学や立正大学の教員時代、コラージュ療法を、学生さんたちに教授していた。それが、自らが高齢になり、ホームで暮らすようになって、訪れてくださる教え子さん(臨床心理士)の手引きで再開し、生きがいとなった。
 私は、臨床美術士となり、父の暮らすホームで、アクティビティの1つに、コラージュ回想法を、前出の心理職や臨床美術士などのなかまとともに開催し、父の創作意欲をサポートしている。
 父は、コラージュについて「制作のプロセスは、遺跡発掘で、スコップを手に地層を掘り降ろしていく作業に似ています。(中略) 何か埋蔵品を掘り当てると、大きな喜びを得ることができます」と書いている。
 完全に忘却していた母親の口癖「人の役に立つ人になりなさい」が、人生に与えた影響の大きさに気づかされたからである。
 また、老人ホームで実施することで「面白いことが多々起きます。ふだん、日常的に接している入居者なかまの、意外な一面を知ることになるからです」と驚く。コラージュを通じ、入居者なかまが各々、スキューバーダイビングや世界旅行、多種類の鳥を飼育する趣味をお持ちだったことを、初めて知ることになった。
 また、重い認知症で口をきかなかった方が、目を見張る創造的で感性豊かな作品をつくられ、写真の切片が刺激物になって記憶が呼び覚まされたのか、とうとうと語り出されたり。アートには“間違い”がないので、けなされたり、叱られたりすることもない。シェアリングの際には、お互いに良いところを誉めあうので「私、コラージュの時間だけ、誉められるの」と感想を口にされる参加者もいる。
 ところで、臨床美術は、1996 年、彫刻家の故・金子健二氏らによって誕生した。その趣旨は、「独自のアートプログラムを用いて、絵を描く、オブジェを作るといった創作活動そのものを楽しむプロセスを通して、認知症の予防や改善、心の解放や意欲の向上、また何らかの問題をかかえた子供たちの回復を目指す」。効果が認められ、年々、対象が子どもや社会人、高齢者までと幅広い世代に広がっている(芸術造形研究所HP より引用&参照)。

 

 臨床美術士は、その専門職である。多摩市にも、少なからぬ臨床美術士が活躍しているので、いつかネットワークできたらと夢見ている。アートバラダイス展にも、ご参加を願っている。
 さて、父の創りためた33 点のコラージュを、展示していただく条件として、父子が会員になり、父が名誉顧問、私は運営理事になることを承諾した。同展で、コラージュ療法や、臨床美術をご紹介させていただく機会を得られ
たことは、大きな喜びである。
 主に美術教育を受けていないシロウトの人たちの内側から湧きあがる思いを表現したアールブリュット(生の芸術)の作品群の中で、父のコラージュは、まさに水を得た魚のように、生き生きと輝き、人目を引いていた。
 鑑賞してくださった方々が、「豊かな人生を送ってきた方なんですね!」「生命力があふれた作品ですね。えっ、(作者は)90 歳近いの!? 信じられない!」など、口々に温かい感想を寄せてくださり、父を勇気づけてくださった。
発表の場があるということは、予期せぬ可能性を広げてもくれる。
 同展は、展覧会開催に不慣れなスタッフも少なくなく、伸びしろが大きいのではないかと思っている。私にこれからどんな貢献ができるか未知数だが、ぼちぼち、無理のない範囲で、手探りしていくつもりだ。
 まずは、来年も、父のコラージュ新作の発表の場に、ぜひ、させていただきたい。
アートには、無限の可能性があると痛感する今日この頃である。


<略歴>
日本女子大学家政学部児童学科卒(児童文化専攻)
 臨床美術士4級、 笑いヨガ ティーチャー
婦人科がんの患者会「子宮・卵巣がんのサポートグループあいあい」主宰
東京都がん対策推進協議会委員
東京ボランティア・市民活動センター刊行の「ネットワーク」編集委員
日本カウンセリング学会、 日本芸術療法学会、日本心理劇学会会員食と健康をテーマとした雑誌の編集記者を経て、著述業
高齢期やがん患者&体験者のQOL向上を主たるテーマに、コラージュ回想法や、笑いヨガ、 傾聴&聞き書きボランティアなど。